気付いたら雪道に立っていた。
喪服を着た私は、ムクと一緒に車を待っていた。
雪はくるぶしの辺りまで積もっていて、足は埋もれているけれど寒いとは感じない。
待っている車を運転しているのは、あまり好ましくない人だった…
その車は2人の前でUターンして、雪に埋もれた私達を置き去りにした。
咄嗟にムクは思い切り駆け出してその車を追いかけた。
私はそのムクを追うように走り出す。
ムクの名前を呼びながら必死で追いかける私。
追いつくはずもない。
雪の積もった峠の道で、とうとう姿が見えなくなった。
それでも走り続けたら随分先に道が枝分かれし、その左側の道の方に戸惑ったムクがいた。
車を見失ったのだろう。
「ムク、ムク」
声の限りに呼ぶ私。
米粒ほどの黒いムクは、私に気付いてくれたのだろう。
どんどん黒い塊が大きくなって行く。
黒い塊は、いつしかムクの色、優しい薄茶になった。
一目散に私に向かって走ってきたその姿は、私の広げた両手の中に飛び込んできた。
そこで目覚めた。
時計を見たら午前2時半。
「ムク、久しぶりに会えたね」
また眠りについた私には、目覚めると日常が待っている。
夢の余韻を感じながらも、朝の散歩をし家に着く直前に、空にはうっすら虹がかかっていた。
「ムク、本当に来てくれていたんだね」
数分で消えてしまった虹。
右側の木の辺りから緩やかに天を目指している。
ムクが居なくなってから、《虹の橋》の話を毎晩読み返して泣き続けた私。
亡くなったペットは虹の橋のたもとに辿り着いて、そこでは元気な頃の姿になり、お腹を空かせることもない。
気休めとも思われるようなそのお話は、私を立ち直らせてくれた。
泣けるだけ泣いた後に、いつかまた会える日まで頑張ろう、そう思えた。
勤務先に向かう車の中、祝日も今日で終わり、やれやれなどと考えた時に
今日が23日だったと気付いた。
ムクの月命日だった。
「ムク」
名前を呼んだ時涙が溢れ出した。
ムクが居なくなってしまってから
通勤の車の中で毎日のように涙を流した。
そこは私がひとりになれる場所であり、人に迷惑をかけずに泣ける場所だったように思う。
泣き虫だった日々。
自分の事を一番に愛してくれていた存在
私が居なければ生きていけなかった存在
喪失感に包み込まれた日々。
玄関の灯りが辛くなった。
いつも帰宅するとそこにお前の姿が映っていたから。
今でも後悔の思いに苦しむ事も多い。
けれど、泣いてばかりいた私にはサヨナラしよう。
ムクはきっと
「お母さん、もう泣かないで。
笑っているおかあさんがすき。一緒にいた時間、幸せだったよ」
そう思っているに違いない。
数日間、10月の陽気で寒かったけれど今日は蒸し暑くも感じる日だった。
冷たい水が好きだったムク。
氷を入れた水を供えた。
ムク、抱きしめることが出来て嬉しかった。
お前の事を考えると、まだ涙が流れてしまうけれど
でも今は
同じ時間を14年も過ごせた事に感謝している。
「ありがとう」
きっと泣いてしまうけれど、又会いにきて欲しい。
「ありがとう、ムク」
今日は突然ですが文体を変えてみました。
最近は仕事の時間も長くて、出勤の日は中々ブログの更新ができないでいます。
なので、今後はお休みの前日の更新という形でやってみようと思っています。
週に2回くらいのペースになってしまうと思いますが、皆様のところにはお休み関係なく訪問させていただきたいと思っています。
こんな私ですが、これからもどうかよろしくお願いいたします。