明け方に見る夢を、私は大抵覚えている。
今朝の4時頃、目覚めた私は心底ホッとした。
又バックを盗まれ財布の中が空っぽになってしまう夢を見たのである。
でも、今回はそのに至る前に様々な出来事があった。それは、少し悲しく、少し嬉しいようなそんな印象だった。
雪の道を私は母と歩いていた。
どのくらい歩いただろう。
母は私に「おんぶしてほしい」と言った。
母を背負って10メートルくらい歩いただろうか…
「ゴメンね、やり直すから一旦おりて」
と、母を下ろした時、私は自分と母が手ぶらな事に気付いた。
急いで引き返すと、背負った場所に2人のバックが乱雑に落ちていた。
嫌な予感は的中し、中身は全て抜き取られていた。
大金は持ち歩かない私がその時は15万を持っていて、クレジットカードなども全て抜き取られていた。
母を下ろして立ち止まった時、怪しげな男性が何度かこちらを振り返った事を思い出した。
その他にも何人もの人が歩いていた。
又母を背負って歩き始めた私。
「今夜泊まるところを探さなきゃ」
いつしか2人は横浜にいて、昔住んでいた女子寮の有る長い坂の下まで辿り着いていた。
昔そこで暮らしていても、今は何も関係がない人を泊める筈が無いのに。
しかも《寮》である。
分かっているのに私は母を背負ってそちらに向かっていた。
通りすがりの男性に
「そこはもう何年も前になくなりましたよ」
と言われて、「そうだった、知っていたのに」
途方にくれてしまった。
暫く歩くと
4畳半も無いような交番がそこに有った。
(実際には存在しない)
そこのおまわりさんに事情を話すと、親切に中に入れてくれた。
狭いはずなのに、広い部屋が存在し(さすが夢)
そこで私は抱いていた赤ちゃんをクッションの上に寝かせた。
いつしか母は居なくなり、私は赤ちゃんを抱いていたのである。
上に何かを掛けてやろうとしても何も無いので、自分の着ているものを掛けようと思ってボタンに手をかけたら、綿のシャツ一枚しか着ていない私。
雪の降る頃なのに軽装。
それでも夢の中は寒さも感じない。
弟に迎えを頼もうかと思ったところで目が覚めた。
真っ暗な部屋の中。
「ここは何処❓」
私の右手に夢ちゃんの柔らかい背中が触れた。
夢…だった。
良かった、財布なくなってなくて。
現実には私は大金は持ち歩かない。
クレジットカードは殆ど使わないけれど何枚か待っている。
財布を無くしたり盗られたりすると、本当に面倒である。
でも過去に無くした事は一度も無い。
「気をつけるんだよ」
母はそう言いたかったのだろうか。
ホッとしたのが優先してしまったけれど、母を背負った感触が残っているのに気付いた時、初彼岸が過ぎた頃、母は私に逢いに来てくれたのだろうか、と思えてきた。
彼岸の時、兄弟と母の思い出話に花が咲いた。
整理してなかった引き出しからは、裏が白くなっている広告がたくさん出てきた。
母は広告の裏でメモしていたのだろう。
掛け算がたくさんしてあったり、誰かの名前が書いてあったり。 ふと弟が
「手先を使ったり計算したりしていたからボケなかったのかもね」
確かにそうかもしれない、それに、私という心配のタネが有ったことも否めない。裁縫、編み物、折り紙、色々な物を作るのが好きだった母。
こんな飾りもたくさん作っていた母。
よく出来て綺麗なものは母が旅立つ時に持たせて、一点もののスーツなども一緒だった。
飾りは今は実家に少しだけ。
財布が無くなったのはショックだけれど、働いていれば取り返せるものだし
もう少しあの夢を見ていたかった。
おんぶしてと言ったけれど、夢の中の母は杖を使っていなくて自力で歩いていた。
元気になっているんだなと思えた。
「逢いにきてくれてありがとう」